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日本語バリアブルフォント完全ガイド:使い方から無料リソース、最適化ツールまで

日本語のバリアブルフォントを徹底解説。Webパフォーマンスとデザインを両立させる使い方、Noto Sans JPなどの無料フォント、ファイルサイズを最適化する変換ツール(サブセット化)まで、具体的なCSS実装例と共に紹介します。

日本語Webデザインの救世主?バリアブルフォントとは

Webサイトの表示速度とデザイン品質。この2つは、特に日本語のWebサイトにおいて、長らくトレードオフの関係にありました。なぜなら、美しい日本語フォントはファイルサイズが非常に大きく、読み込むウェイト(太さ)が増えるほど、ページの表示速度が著しく低下してしまうからです。

  • 「見出しは太く、本文は細くしたい」
  • 「この部分だけ少しウェイトを変えたい」

こうしたデザイン上の要求を満たすために、Light, Regular, Medium, Bold... と複数のフォントファイルを読み込ませた結果、Webサイトが重くなり、ユーザーの離脱を招く。そんなジレンマを多くのWeb制作者が抱えてきました。

この長年の課題を解決する可能性を秘めた技術が、**「バリアブルフォント(Variable Fonts)」**です。

本記事では、この「日本語バリアブルフォント」に焦点を当て、その基本概念から、具体的な使い方、活用できる無料リソース、そして日本語環境で必須となる変換ツール(最適化ツール)まで、包括的に解説します。


1. バリアブルフォントの基本概念

まず、バリアブルフォントが従来のフォントと何が違うのかを理解しましょう。

従来の「スタティックフォント」

従来私たちが使ってきたフォントは「スタティック(静的)フォント」と呼ばれます。

  • MyFont-Regular.woff2(標準)
  • MyFont-Bold.woff2(太字)
  • MyFont-Light.woff2(細字)

このように、ウェイト(太さ)やスタイル(斜体など)ごとに、個別のフォントファイルが必要でした。もし5種類の太さを使いたければ、5つのフォントファイルをサーバーにアップロードし、ユーザーにダウンロードさせる必要があったのです。

「バリアブルフォント」の革新性

一方、バリアブルフォントは、1つのフォントファイルの中に、様々なスタイル情報を「可変軸(Axis)」として内包しています。

主要な可変軸には、以下のような登録済みの軸(Registered Axes)があります。

  • wght: ウェイト(太さ)
  • wdth: (文字の横幅)
  • ital: イタリック
  • slnt: スラント(傾き)
  • opsz: オプティカルサイズ(表示サイズに応じたデザインの最適化)

この仕組により、デザイナーや開発者は「Bold(太さ700)」と「Regular(太さ400)」といった決まった太さだけでなく、「太さ550」や「太さ475」といった中間のスタイルを無段階に指定できるようになります。


2. なぜ今、日本語でバリアブルフォントなのか?

この技術が、なぜ特に「日本語」環境で注目されるのでしょうか。理由はシンプルで、日本語フォントはファイルサイズが桁違いに大きいからです。

日本語フォントの課題

アルファベット(欧文フォント)は、大文字・小文字・数字・記号を合わせても数百グリフ(文字)程度です。

しかし、日本語フォントは、ひらがな、カタカナ、JIS第1水準漢字(約2,900字)、JIS第2水準漢字(約3,300字)など、数千から数万のグリフを収録しています。

その結果、

  • 欧文フォント(1ウェイト): 数十KB
  • 日本語フォント(1ウェイト): 数MB〜十数MB

この差は致命的です。従来のスタティックフォントで3ウェイト(Regular, Medium, Bold)を読み込むだけで、10MBを超えることも珍しくありませんでした。

バリアブルフォントがもたらすメリット

ここで日本語バリアブルフォントを採用すると、2つの大きなメリットが生まれます。

メリット1: 大幅なファイルサイズ削減(とパフォーマンス向上)

最大のメリットです。

  • 従来(スタティック):

    • NotoSansJP-Regular.woff2 (約2.5MB)
    • NotoSansJP-Bold.woff2 (約2.5MB)
    • NotoSansJP-Light.woff2 (約2.5MB)
    • 合計: 約 7.5MB
  • 現在(バリアブル):

    • NotoSansJP-Variable.woff2 (全ウェイト内包)
    • 合計: 約 3.5MB

(※サイズはサブセット化により変動しますが、傾向として)

このように、1つのファイルで全ウェイトをカバーできるため、複数のウェイトを使うほど、合計ファイルサイズは劇的に削減されます。HTTPリクエスト数も1回で済むため、Webサイトのパフォーマンスが大幅に向上します。

メリット2: 柔軟で豊かなデザイン表現

ファイルサイズを気にせず、デザインの細部にまでこだわれるようになります。

  • ウェイトの無段階調整: 「本文は400、見出しは700」だけでなく、「中見出しは550」「キャプションは350」といった微細な調整が可能です。
  • レスポンシブデザインとの親和性: 画面幅(ビューポート)に応じて、フォントの太さ(wght)や幅(wdth)を動的に変更し、可読性を最適化できます。
  • インタラクティブな表現: マウスホバーでじわっと太くするような、リッチなタイポグラフィアニメーションも簡単に実装できます。

3.【実践】バリアブルフォント 日本語 使い方 (CSS)

では、具体的に日本語バリアブルフォントをWebサイトで使う方法(使い方)を見ていきましょう。ここでは、Google Fontsの「Noto Sans JP」を例に説明します。

ステップ1: バリアブルフォントの読み込み

Google Fontsからバリアブルフォントとして読み込むのが最も簡単です。

<link rel="preconnect" href="https://fonts.googleapis.com">
<link rel="preconnect" href="https://fonts.gstatic.com" crossorigin>
<link href="https://fonts.googleapis.com/css2?family=Noto+Sans+JP:[email protected]&display=swap" rel="stylesheet">

注目すべきは [email protected] の部分です。これは「ウェイト100から900まで、すべての範囲を可変として読み込む」という指定です。

ステップ2: CSSでの基本的な使い方 (font-weight)

読み込んだフォントは、font-family で指定します。

body {
  font-family: 'Noto Sans JP', sans-serif;
}

バリアブルフォントの素晴らしい点は、wght(ウェイト)軸が登録されている場合、従来の font-weight プロパティでそのまま太さを指定できることです。

h1 {
  font-weight: 900; /* 最も太い */
}

h2 {
  font-weight: 700; /* 従来のbold相当 */
}

p {
  font-weight: 400; /* 従来のregular相当 */
}

/* 100〜900の間の任意の値が指定可能! */
.sub-heading {
  font-weight: 550; /* スタティックフォントでは不可能だった中間値 */
}

.caption {
  font-weight: 250; 
}

ステップ3: 高度な使い方 (font-variation-settings)

font-weight 以外の軸(例えば wdth 幅)を操作したり、より細かく制御したい場合は、font-variation-settings プロパティを使います。

これは、各軸の4文字の識別子(FourCC)と値をペアで指定する、ローレベルな制御方法です。

/* 例:Noto Sans JP の 'wght'(太さ)軸を 350 に設定 */
.custom-element {
  font-variation-settings: 'wght' 350;
}

/* 例:幅('wdth')軸と太さ('wght')軸を同時に設定 */
/* ※ Noto Sans JP には 'wdth' 軸は標準搭載されていません。
   もし 'wdth' 軸を持つフォントなら、このように指定します */
.wide-and-bold {
  font-variation-settings: 'wdth' 120, 'wght' 800;
}

注意点: font-variation-settings は強力ですが、可能な限り font-weightfont-stretch(幅)といった既存のプロパティを使うことが推奨されます。ブラウザが適切にフォントを解釈し、アクセシビリティを維持しやすくなるためです。font-variation-settings は、カスタム軸や既存プロパティで対応できない場合に使いましょう。

ブラウザサポート

バリアブルフォントは、Internet Explorerを除くすべてのモダンブラウザ(Chrome, Firefox, Safari, Edge)でサポートされています。IEのサポートが不要になった現在、導入の障害はほぼありません。


4. 日本語 バリアブルフォント 無料リソース

「使ってみたいけれど、高価なのでは?」と心配する必要はありません。高品質な日本語バリアブルフォントが無料で提供されています。

① Noto Sans JP (Google Fonts)

  • 提供元: Google
  • 特徴: 現在、日本語Webフォントのデファクトスタンダードと言える存在です。クセのないモダンなゴシック体で、あらゆるデザインにマッチします。
  • 軸: wght (100〜900)
  • 入手方法: Google FontsのWebサイトから<link>タグで読み込むか、GitHubリポジトリからフォントファイルをダウンロードできます。
  • ポイント: Google Fonts経由で使うと、ブラウザが必要とする形式(WOFF2)に自動で最適化してくれるため、最も手軽です。

② Noto Serif JP (Google Fonts)

  • 提供元: Google
  • 特徴: Noto Sans JPの明朝体(セリフ)バージョンです。こちらもバリアブルフォントとして提供されています。
  • 軸: wght (200〜900)
  • 入手方法: Google Fonts

③ 源ノ角ゴシック (Source Han Sans) / 源ノ明朝 (Source Han Serif)

  • 提供元: Adobe
  • 特徴: Notoフォントファミリーは、実はAdobeが開発した「源ノ角ゴシック」「源ノ明朝」をベースに共同開発されたものです。中身はほぼ同じですが、Adobe Fonts経由でも利用できます。
  • 入手方法: Adobe Fonts (Creative Cloudサブスクリプション) または GitHubリポジトリ からダウンロード。

現状:無料の選択肢はまだ限定的

2025年現在、高品質な日本語バリアブルフォントで、Webフォントとして自由に使える無料の選択肢は、実質的に「Noto/源ノ」ファミリーが中心です。

有料フォント(例:Adobe Fonts, Morisawa, Fontworks)に目を向ければ、デザイン性の高いバリアブルフォントも増えてきていますが、まずは無料のNoto Sans JPを使いこなすことが、日本語バリアブルフォント活用の第一歩となるでしょう。


5. 最重要:バリアブルフォント 変換ツール (サブセット化)

日本語バリアブルフォントを使う上で、避けて通れないのが**「サブセット化(Subset)」**という最適化の工程です。

「バリアブルフォントは1ファイルで軽い」と説明しましたが、それはあくまで「複数ウェイトのスタティックフォントと比較した場合」です。

NotoSansJP-Variable.woff2 のフルセットは、約 3.5MB もあります。

3.5MBのフォントファイルを、Webサイトの訪問者全員にダウンロードさせるのは現実的ではありません。そこで「変換ツール」を使い、ファイルサイズを劇的に小さくします。

「変換ツール」=「サブセット化ツール」

ここで言う「変換ツール」とは、フォントファイルから「必要な文字だけ」を抜き出す(サブセット化する)ツールのことです。

例えば、

  • JIS第1水準(約2,900字)だけを抜き出す
  • ひらがな、カタカナ、主要な教育漢字(約1,000字)だけを抜き出す
  • Webサイトで実際に使っている文字(例:見出しの「最新ニュース」)だけを抜き出す

このようにして、3.5MBあったフォントを、数百KB(場合によっては数十KB)まで軽量化します。

おすすめのサブセット化(変換)ツール

① サブセットフォントメーカー(GUIツール)

  • 特徴: Windows/Macで動作するGUIアプリケーション。フォントファイルと、使用する文字のリスト(テキストファイル)を指定するだけで、簡単にサブセット化されたフォント(WOFF2)を生成できます。
  • 対象: プログラミングが苦手なデザイナーや、手軽に試したい人。
  • URL: https://opentype.jp/subsetfontmk.html

② font-subset(コマンドラインツール)

  • 特徴: Node.jsベースのコマンドラインツール(CUI)。npm でインストールし、ターミナルから使用します。
  • 対象: 開発者。Webサイトのビルドプロセス(webpackやGulpなど)に組み込むことで、サブセット化を自動化できます。
  • URL: https://www.npmjs.com/package/font-subset

③(参考)スタティックからバリアブルへの「変換ツール」は?

もしあなたが「既存のスタティックフォント(例:ヒラギノ)をバリアブルフォントに変換したい」と考えているなら、残念ながら、一般ユーザー向けの簡単な「変換ツール」は存在しません。

バリアブルフォントの作成は、フォントデザイナーが専門的なツール(Glyphs, FontLabなど)を使い、複数のウェイトのデザイン(マスター)を緻密に調整して初めて可能になる、非常に高度な作業です。

私たちがSEOやWeb制作の文脈で「バリアブルフォント 変換ツール」と呼ぶ場合、それはほぼ間違いなく「サブセット化ツール」を指します。


6. まとめ:日本語バリアブルフォントでWebの未来をデザインしよう

本記事では、日本語バリアブルフォントの基本から、使い方、無料リソース、そして必須となる最適化(サブセット化)ツールまでを網羅的に解説しました。

重要なポイント:

  1. バリアブルフォントは、1ファイルで多様な太さやスタイルを実現できる革新的な技術です。
  2. 日本語環境では、複数のスタティックフォントを読み込むより、パフォーマンス(速度)とデザイン柔軟性の両方を劇的に改善できます。
  3. 使い方は簡単。Google Fontsから<link>で読み込み、CSSの font-weight で100〜900の値を指定するだけです。
  4. 無料で高品質な Noto Sans JP (ゴシック) / Noto Serif JP (明朝) がすぐに使えます。
  5. 最重要: フルセットのまま使ってはいけません。必ず「変換ツール(サブセット化ツール)」を使い、必要な文字だけを抜き出してファイルサイズを軽量化してください。

日本語Webフォントの「重い・遅い」という時代は終わりを告げようとしています。バリアブルフォントを正しく理解して使いこなし、ユーザー体験とデザイン品質を高いレベルで両立させる、次世代のWebデザインを実現しましょう。


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